この度、中国における大学教員の職を辞め、日本に本帰国しましたのでそのご報告をさせていただきたいと思います。
退職&本帰国
理由は後述しますが、退職及び本帰国をすること自体は自分の中では昨年の春頃には決まっていました。
本帰国の決断をして以降は、業務の合間を縫ってただひたすら就職活動をしてばかりの日々でした。毎週毎週、土日も家に引き籠もって履歴書等の応募書類の作成を続け、フルタイムで働きながらの就活がこれほどまでにしんどいものかと思い知りました。
不採用通知が続き、本帰国後はとりあえず地元でアルバイトかな… などと思っていた頃、内定の電話があり、何とか無職にならずに済みました。
2025年に入り、春学期の授業の担当決めが始まるタイミングで職場に退職する旨を伝え、辞表を提出しました。
冬休みは日本で過ごし、2月の中旬に中国に戻ったところ、給料の支払いが既に停止されている旨伝えられました。研究費の残りも全て凍結済みで、学生への給料の支払いができず、まだ精算手続きをしていなかった出張旅費の精算もできずで、中国社会というのはこうも去る者に冷たいのかと驚きました。3月末日で正式に退職という形にはなっていたものの、2月の時点で既に職場の教員リストから私の名前は消えていました。結構な年数中国で暮らし、研究者として、また大学教員として中国社会に貢献してきたつもりですが、最後は正直かなり印象が悪かったです。経済的な損失も100万円を超えています。
そんなゴタゴタやイライラの中、専門書等の比較的高価なものだけ選んで日本に送り、まだ価値のありそうな家電製品などは学生たちにあげ、その他の私物はほとんど捨てて家を引き払いました。中国生活を振り返ってあれこれ思う余裕すらないような忙しない状態のまま、3月の下旬に日本に帰ってきました。
本帰国後は息つく暇もなく、今度は大急ぎで新生活の準備。連日3~4時間程度しか睡眠時間が取れず、もう3月の最後の数日間は記憶がほとんどありません。
そして気付けば4月1日。辞令の交付を受け、電話帳のような分厚い書類の束を渡されて、数日間かけて入職の手続きを進めました。
それから約1週間が経ち、まだ家の中は散らかったままですしエアコンすらないような状態ですが、まあようやく一息つける状態にはなったのかなと。
この辺りで皆さんにご報告をさせていただこうと思い、筆を取った次第です。
日本に帰ることに決めた理由
昨年、退職の意向を親しい中国人の同僚たちに伝えた際に毎回聞かれたのが「理由」です。
中国人の大学教員は皆無期雇用の公務員であり、無期雇用の職が日本に比べて非常に少ない中国社会においてはかなり恵まれた職だと言えます。ですから中国人からしたらその職を定年前に自ら辞めるというのは、理解が難しい行為なのです。
ただ、外国人は中国では公務員にはなれませんから、私は有期雇用でした。私が退職&本帰国を決めた理由にはいろいろありますが、最も大きかったのはこの「差別」です。日本人からしたら有期雇用の職など、仮に職位が教授でも所詮は非正規雇用みたいなものでしかなく、いくら先生、先生と日々呼ばれていても、常に自分は中国人教員たちよりも「下」であるという現実がそこにはありました。日本の大学に目を遣れば、東京大学のような国立大学でも当たり前のように中国人の教員がいます。もちろん無期雇用。独法化したとは言え、実質的な身分は国家公務員です。日本には存在しない差別が中国には存在するのです。かねてよりそれが嫌で嫌で仕方がなくて、もうそれに耐えるのに疲れた、というが一番の理由です。要は、これから更に5年10年と中国で暮らす未来が描けなかったのです。
他にもいろいろ理由はあるのですが、ここではそれらの中でも特に重要な、ここで言及しておくべきと思われる二点だけ挙げておこうと思います。
一つは、「研究上の不正や倫理的に問題のある行為が多過ぎる」ことです。ストレートに言えば、論文の売買や賄賂の授受が横行していて、そんな環境に身を置いている自分自身が正直嫌いでした。中国では、研究費から他大学の研究者宛にコンサル料の名目で簡単に送金が可能です。また、任意の内容で領収書を発行してくれる闇業者が存在し、研究費の現金化も可能です。結果的に学術の世界も完全にビジネス化してしまっていて、私は結果的に長居してしまいましたが、「学術界がこれでいいのか?」という疑問はずっと胸の中にありました。
もう一つは、「地政学的なリスク」です。習近平さんは絶対に台湾統一を成し遂げると言っているわけで、軍事侵攻に関連した様々なリスクが懸念されました。実際に軍事侵攻が始まれば、VPN接続の遮断、外国人のWeChat(中国で最も普及しているメッセージアプリ、LINEのようなもの)アカウントの監視等が始まる可能性があります。大学のような公的機関に勤めている外国人は、プロパガンダ要員として利用される可能性も高いのではないでしょうか。コロナ禍が始まった頃、私の元同僚のアメリカ人教員は実際にそういった役割を担わされました。ロシアによるウクライナ侵攻なども含めた国際情勢を顧みて、「そちら側にいてはいけない」という強い危機感がありました。
今後のこと
10数年間に及ぶ海外生活を経て日本に帰ってきたわけですが、現在の自分にはやりたいことが山ほどあります。
現在もフルタイムで働いているので、もちろん自由に使える時間は決して多くはありませんが、何とか時間を作って進めていきたいと思っていることがあります。
まずは、やはり何らかの形で海外生活、主に中国生活の総括をしなければと思っています。中国生活に関して気付けばほとんど紹介することなく本帰国に至ってしまったので、向こうでの生活の中で学んだ様々なことを何らかの形でまとめるということはやはりしなければ… という思いが強いです。
もう一つ、個人的に強い興味を持っているのは、各種社会問題に関する意見発信です。これは専らTwitterを舞台にここ数年自分が緩く取り組んできたことではありますが、おかげさまで多くの方々にフォローしていただき、私のように現在の日本の政治や社会全体の流れに危機感を抱いている人たちが他にもたくさんいるという現実がよくわかりました。私はどこにでもいるただの中年男性ではありますが、海外で10年以上暮らしましたから、日本という国を客観的に見る視点は持っていると思います。学位取得後、今日までずっと学術界で生きてきた現役の研究者ですから、科学技術政策や高等教育機関に関連した諸問題に関する知見もそれなりにあると思います。そんな経歴を生かしつつ、今後も様々な形で情報発信、意見発信は続けていけたらいいなと思っています。
最後に
以上、簡単ではありますが、退職&本帰国の報告とさせていただきます。
SNS経由で直接コミュニケーションを取る機会があった方々がいれば、主に見る専門で私を静かに見守ってくださった方々もいらっしゃるかと思います。そんな全ての皆さんに、この場を借りてお礼を言いたいと思います。本当にありがとうございました。
とにもかくにも、無事日本に帰ってきました。
これからも様々な形で皆さんとコミュニケーションが取れたらと思っているので、ぜひ引き続きよろしくお願いします。
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