先週いっぱいで私が今学期担当した全科目の期末試験が終わり、煩雑な成績処理も無事終了。ようやく授業から解放された。
中国の大学生は基本的に皆キャンパス内の学生寮で生活していて、冬休みと夏休みのそれぞれ約2か月間は帰省し実家で過ごすのが慣例。学生さんたちの多くは先週末に帰省し、キャンパスから一気に活気がなくなった。
それにしても、今学期も学生達を見ていて改めて中国の大学生は大変だなと。兎にも角にも競争競争競争の日々。学期ごとに全学生の成績ランキングが公表され、ひたすら競争を煽られる様を見ていると可哀想にすら思えてくる。
多くの学生が目指しているのは大学院への進学。中国は日本など比べものにならないくらいの学歴社会であり、学歴が将来の生活の質に直結するからだ。そもそも大学院を出ていないと就けない職も多く、高校の先生になるための必要条件だと聞いた時にはさすがに驚いた。最近、中学校の教員募集の案内が回ってきたのだけど、「修士卒以上」が応募条件になっていた。比較的レベルの高いいわゆる「いい中学校」で働くためにも、やはり院卒である必要があるのだとか。日本では考えられないような話だなと。
そんなわけで、文系理系を問わず、学部生に進路希望を聞くと多くの場合「大学院進学」という答えが返ってくる。しかしながら、実際に進学できるのはほんの一握りの最も優秀な学生たちだけ。需要に対して大学院の定員は圧倒的に足りないからだ。聞いた話によると、大学院入試を受けたところで、合格するのは10人中1人か2人なのだとか。
そこで学生たちが目指すのは「推薦」の獲得。自分の大学からこれさえ得られれば、比較的レベルの高い大学の大学院であっても、面接のみでそれなりに高い確率で合格できるのだとか。例えば、とある専攻の定員が25人だったとして、20人程度はこの推薦で埋まり、残りの5つの椅子を推薦が得られなかった学生たちで奪い合うことになるのだそう。
そんなわけで、学生たちは大学入学後からこの「推薦」を得るために熾烈な競争を繰り広げることになる。実際に推薦が得られるのは、例えば定員50名の学科があったとして、2~4名程度(専攻によって異なる)。選抜方法としては、仮に学部生の間に論文を書いて主要学術誌に掲載されたらそれでもってほぼ確定ではあるものの、そんな学生はまずいないわけで、基本的にはやはり成績順で決まる。私が日本で学部生をしていた時は、そもそも成績などA~Dの4段階でしかつかなかったけれど、中国では小数点以下まできっちり数字で出すため、明確に「順位」がつく。
日本の大学生と言えば、サークル活動やアルバイトに精を出したり、飲み会や恋愛を楽しんだりと、まさに人生の黄金期を皆謳歌するイメージがあるが、そんなバラ色な学生生活は中国には存在しない。学生たちは皆時間ができたら寸暇を惜しんで図書館へと足を運び、時間のある限り勉強する。早朝から夜遅くまで、皆狂ったように勉強していて、教員の私が言うのもなんだけれど、皆頭がおかしいのではないかと思うほどだ。この国ではここまでしないとまともな生活が送れないのかと、正直不憫に感じる時がある。
過酷な競争に耐えられなくなり、精神を病んで休学や退学といった選択をする学生も少なくないし、3年生くらいになると、完全に戦意を喪失してしまう者も結構いる。
そういった学生たちにとっての一つの選択肢が、「外国の大学院への進学」。日本の大学院に中国人留学生が非常に多いことからも分かる通り、日本も主要な候補地の一つ。大学の数が圧倒的に足りない中国とは真逆で、日本には大学が多過ぎる。いわゆる一流大学でも大学院の定員を満たすのに苦労しているところは多く、中国人は恰好の「お客さん」でもあるのだ。中国人からしたら、中国国内の大学院に進学するよりもはるかに簡単なわけで、非常に魅力的な選択肢となっている。しかし、言うまでもなく留学には大きなコストがかかる。日中間における給与水準の差は未だ大きく、経済的に余裕のある家の子供でないと留学は難しいというのもまた現実。
一般的に、中国における「教育コスト」は極めて高く、収入のほとんどを子供の教育に注ぎ込んで自身はひたすら節約の日々を送っている中国人の同僚は多い。とにかく塾代が本当にものすごく高く、中国では大学教授よりも塾の講師の方がよほど儲かると言われているくらいだ。子供のためならいくらでもお金を出す親が多いということなのだと思う。
幼稚園のうちから英会話教室に通い、小学校に上がってからは毎日学習塾通い、競争競争競争で、20歳を過ぎてもそれは続く。「終身雇用」という概念のない国であり、60歳まで安心して働けるのは公務員だけ。しかし公務員の給料は低い。民間企業に入れば能力に応じてそれなりの給料がもらえるが、ノルマ未達成で簡単にクビになる。これがこの10年間で中国が急成長し、あっという間に日本を抜き去ることができた理由。
学生たちの中には、「頑張って勉強していい仕事に就き、ある程度の年数仕事を頑張ってお金を貯めたら、将来は小さなカフェを経営したい」と言う者が多くいる。人によって「レストラン」だったり「花屋」だったりと少し変化はするものの、皆「小さなお店の経営」に興味を持っているのだ。理由を聞いてみたところ、「もう競争はたくさん、自分のペースで静かに生きたい」とのこと。過当競争により、皆本当に疲れているのだ。
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