コロナ禍で入国できない留学生たち

COVID-19

中国の大学では、もう少しで冬休みが終わり、まもなく春学期が始まります。

何も変わらなかった今冬

大学によって多少の違いはありますが、うちの大学では今日が教員にとっての冬休み最終日。明日から出勤です。

学生達は次の週末までに帰省先から大学の寮に戻ってくることになっており、3月1日から春学期が始まります。

中国では連日、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の新規感染者はゼロ。感染拡大リスクの高い冬も、ほぼ完全な形でウイルスを封じ込めることに成功しました。

しかしながら、これは水際対策の徹底が功を奏している部分が大きく、この状態を維持しようと思えば、今後も引き続き厳格な入国制限を維持せざるを得ないということになります。現在、ほぼ全ての外国人は中国には入れませんが、今後もこの状態は続く可能性が高いです。巷では、「北京オリンピックが終わるまでは維持される可能性が高い」という噂も飛び交っています。

一方、日本でも新型コロナ対策に関しては膠着状態が続いています。1月に二度目の緊急事態宣言が発出されたわけですが、それの解除になかなか舵をきれない状態が続いているのです。新規感染者はだいぶ減ってきましたから、解除への流れができるかと思いきや、「せっかくここまで来たのだから、もっと減らしてから解除すべき!」という意見が多くあり、一部の国民からは「新規感染者ゼロを目指すべき!」という声まで出ているのが現状です。

そんなわけで、日中ともに、今冬も国を跨ぐ移動制限の緩和に関しては進展がありませんでした。

私自身は、日本にいる家族に会えないまま1年が過ぎました。正直、心が折れつつあります。

日本留学ができない中国の学生たち

日中の入国制限は学生達にも甚大な影響を与えています。

私の学生数名は2021年4月から日本の某大学で留学する予定でしたが、日本政府が外国人の入国を拒否しているため留学しようにも日本に入ることすらできません。

冬休みに入る前に、日本に留学する予定の学生たちには日本での生活に関して注意すべき点などを色々と説明したのですが、皆日本での生活をものすごく楽しみにしていました。皆日本に行くことを目指して日々の学業に勤しんでいた外国語学部日本語学科の学生たちであり、日本留学は彼ら彼女らにとってはまさに「夢」だったのです。

日本では「留学」の名目で日本にやってくるベトナム人技能実習生による犯罪行為が最近よくニュースで取り上げられていますが、そういった連中の目的は日本で働いてお金を稼ぐことであり、留学でも何でもありません。私の学生たちは基本的に皆、最終的に日本のトップ大学の大学院への進学を目指している者たちであり、真に学問のために日本留学を希望しています。ですから、技能実習生の類と一緒くたにされている現状を腹立たしく思っています。

日本留学にはお金がかかりますから、日本留学ができる学生は皆ある程度経済的な余裕のある家に生まれたお嬢様お坊っちゃまばかりです。そういった学生達ですから、新型コロナ対策も徹底していますし、日本でも日本人以上にマナーを守った生活をすることでしょう。そういった外国人の入国を拒否する理由というのは一体何なのでしょうか? そもそも中国では連日新型コロナの新規感染者はゼロですから、彼ら彼女らが日本にウイルスを持って行く可能性はほぼゼロです。日本の方がはるかに感染リスクが高いわけで、逆ならわかりますが、日本側が拒否するのは科学的にも明らかに間違っています。

中国に入国できない留学生たち

日本政府は現在外国人の入国を拒否しているわけですが、中国政府も同様の措置を取っており、留学生は中国には入れません。

うちの大学には800人ほどの留学生がいますが、その半分が現在でも中国に入国できずにいます。

実は今年、私はうちの研究グループに配属された外国人大学院生の授業と修士号を取るための研究指導を担当することになっています。彼らも現在本国にいますから、全てリモートでやらなければなりません。

大学院生の授業ともなると専門性が高く、リモートでの授業は本当に大変です。SNS上では「オンライン授業で教員は楽をしている」なんていう意見が飛び交っていますが、どう考えても我々教員にとってはオンライン授業の方が大変です。本来なら教科書片手に黒板を使って授業をやればいいわけですが、オンライン授業だとスライドの準備が必要になるからです。あとは学生たちの顔が見えず、パソコンの画面に向かって一方的に話し続けるだけというのは結構しんどいものです。

ただまあそうは言っても、オンライン授業はまだ許せます。本当に困難なのはオンラインでの「研究指導」です。これは本来なら面と向かって様々な教科書や論文を一緒にチェックしながら議論を進めるものですから、オンラインでやるのは大変です。すごく優秀な博士後期課程の学生やプロの研究者との議論はオンラインでも可能です。この業界には、1とは言わずとも、2や3を聞いて10を理解できる人が山ほどいるからです。しかし今年私が指導を担当するのは修士課程の学生、しかも教育水準のかなり低い貧しい国からの留学生なのです。

色んなことを言う人がいますが、「何でもリモート」は無理です。例えば、私が一人で研究をして、自分で書いた論文に留学生の名前を加えればそれで彼は修士号が獲得できます。ただ、そんなのは教育でも何でもないわけで、十分な能力を身につけさせた上で学位を授与するためにも、入国制限の緩和は絶対に必要です。

中国に入国した者は中国人であっても現在2~3週間の厳格な隔離が課されていますし、精度を上げるためという理由で現在は肛門PCR検査まで導入されています。それだけ厳格な水際対策をやっていれば入国させても問題ないのではないかと思えてならないのですが、、、なぜまだダメなのでしょうか。

私の意見

現状、日中ともに入国制限が緩和される気配は皆無です。

何となく私が思うことですが、2021年は2020年とほとんど変わらない年になるのではないでしょうか。

ワクチンに期待する声が大きいわけですが、中国の製薬メーカー製ワクチンの有効性は外国での治験の結果、50~70%だろうと言われています。日本で接種が始まっているファイザー社製ワクチンの有効性は当初は95%程度はあると言われていましたが、変異種に対しては大幅に低下する可能性が指摘されています。しかも、あくまで重症化を抑える効果がメインですから、ワクチンを接種しても感染自体はします。もちろん重症化を防ぐことが本来であれば最も重要なのですが、現状注目されているのは「新規感染者数」ですから、ワクチンによって急速にコロナ禍が収束に向かうとは思えません。それに、中国に関しては既に新規感染者などいないわけで、ワクチン接種のモチベーションがはっきりしないような気すらします。全国民が接種したとして、入国制限の解除という流れになるのでしょうか? 完全な封じ込めを実施している以上、状況が好転するとは如何にもこうにも思えないのです。

私も来月からは授業や研究指導で再び忙殺される日々になります。気付けばどんどん時間が経っていることでしょうが、兎にも角にも現状を見ていると、近いうちに状況が好転するシナリオが想像できないのです。

頑張ればこの世界から駆逐できるタイプのウイルスなら封じ込めを目指すべきに決まっているわけですが、それは不可能、共生の道しかないということで専門家たちの意見が一致しているのが新型コロナです。

マスク着用や手洗い、免疫力が下がらないよう規則正しい生活を心掛ける程度で何とかならないものなのでしょうか?

それとも、日本も中国も、国民全員がワクチン接種をした段階で一気に社会全体の雰囲気が変わるのでしょうか?

繰り返しになりますが、ワクチンを接種したからといって感染はするわけで、PCR検査を受ければ陽性になります。特に日本においては、PCR検査をすればするだけ新規感染者の数は増える、という状況が変わるとは思えないのです。

これはもう一人の大学教員程度に何とかできる類のものではなく、あくまで政治主導で動いていく話ですから、私には静かに状況の推移を見守ることしかできません。

ただ、職業柄、自分の意見ははっきり述べるべきだと考え、今回は思い切ってこういった記事を書いてみることにしました。

私の意見としては、ワクチンの力を借りつつ、個人レベルでできる範囲の感染予防対策は継続しつつ、徐々に「新型コロナとは共生するしかない」という科学的エビデンスに基づいた理解を促していくべきだと思います。そしてその過程において、なるべく早めに入国制限が緩和されることを願っています。「渡航時のPCR検査陰性証明の提示と入国後2週間の厳格な隔離」、これで十分なのではないかと。水際対策は実行すべきです。ただ、「外国人は一律入国禁止」というのはやり過ぎであり、もう少し人道的な配慮があっても良いのではないかと考えているのです。

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