2023年の振り返り。ゼロコロナ政策終了後の中国。

COVID-19

2022年12月に突如発表されたゼロコロナ政策の終了。あれからの1年間がどのようなものであったのか、2023年に別れを告げるに際して振り返ってみたいと思います。

突如終了したゼロコロナ政策

2022年12月7日、中国当局からコロナ対策に関する新ルールが発表され、5年でも10年でも続くかに思われたゼロコロナ政策は3年弱で突如終わりを迎えました。

この発表後の「撤収」の動きはとてつもなく速かったです。PCR検査場は瞬く間に撤去され、健康コード関係などのスマートフォンで利用するタイプのツールは機能が停止しました。至るところに貼られていた健康コードの提示を促す案内などは全て剥がされ、表面的には短期間でコロナ禍の前に戻りました。

一体あの隔離、隔離、隔離の日々は何だったのかと呆気にとられたのを今でも覚えていますし、今でもまだ「あの3年間は一体なんだったのだろうか…」という何とも言えない感情が胸の中で燻る時があります。

一瞬で拡散したウイルス

ゼロコロナ政策撤廃後の感染爆発は誰もが予想していたわけですが、市中には見たことのないような光景が広がっていました。常軌を逸した速度での感染拡大により病院はパンク。街中の小さな診療所は助けて求めてやって来た感染者でごった返し、真冬にも関わらず外にもプラスチックの椅子をいくつもいくつも出して、皆が疲れ切った表情で点滴を受けている様は異様としか言いようがない光景でした。

職場の同僚や学生も私が知る限り全員感染しました。全ての薬局から解熱鎮痛剤が消えてなくなり、手元に多めにあったロキソニンを同僚に分けたところ、職場の中国共産党支部の書記さんから「中日の架け橋となる素晴らしい行為!」などといった言葉で大いに称賛された話は割愛しますが、部分的に完全に商品が消えた薬局の棚を目にした時には本当に恐怖を感じました。

非専門家の私が多くを語るべきではありませんが、症状としては、皆の主張を総合するに「喉の痛みが強い風邪」でした。ただ、もちろん個人差はあり、私の学生の症状はとりわけ重いものに思われました。高熱に加え、胸が苦しい、息がしづらくて声が出ないと連絡があった時にはどうしたものかと本当に焦りました。食料や薬、パルスオキシメーターなんかを夜遅くに寮まで持って行った日のことは今となってはただの思い出ですが、外国人の指導教官として強いストレスや不安を感じたのもまた事実です。

12月の中旬下旬で皆悉く感染し、多くは1週間程度で回復し、ゼロコロナ政策だけではなくコロナ禍自体が収束した、そんな2022年の12月でした。

100万人とも予想されていたゼロコロナ政策撤廃後の中国国内におけるコロナ死者数、実際の数字を私は知りませんし、おそらく統計データなど存在しないのだと思います。真面目に試みたとしても、あの感染爆発による混乱の中、正確に計数ができたとは私にはとても思えません。

結局コロナ対策の正解は何だったのか、個人的にはその答えを知りたいという思いが今でも強いです。そのくらいあの3年間でしんどい思いをしたので。ただ、どこの国の政府も検証に興味はないようです。

日中間の往来

ゼロコロナ政策撤廃後、中国国内で感染爆発が起きたことに関しては日本でも盛んに報道され、世論の高まりにより日本政府は中国からの渡航者に対する検疫を強化しました。

この対応に中国側はもちろん激しく反発し、日中関係悪化のきっかけになったことは言うまでもありません。その数ヶ月のALPS処理水の海洋放出により日中関係はさらに大きく悪化するわけですが、この1年間を振り返れば、日中関係は悪化の一途を辿ったと言えるのではないでしょうか。現在でもまだ日本人のビザなし中国渡航は解禁されていないわけで、コロナ禍の前、2019年とは全く異なる現状がそこにはあります。

日中間の往来に関して、個人的にはまず1月に一時帰国しました。日本到着後に抗原検査が課せられ、「中国ではもうコロナ禍なんて終わっているのに…」なんて思ったのを今でも覚えています。2022年12月でもって、日中のコロナ対応(の厳しさ)は逆転したのです。中国入国後には隔離義務がなく、コロナ禍が終わったことを実感しました。夏にも一時帰国しましたが、全てがスムーズでした。

ただやはり、とにもかくにも日本から中国へのビザなし渡航ができない状態が続いているというのは本当に大きなことであると言えます。フランスやドイツに対してはビザ免除措置は先月発表され既に実施されていますから、そのうち日本に対しても政策の調整がなされる可能性はあるとは思いますが、現時点ではそれを許さない世論が存在するのだとも言えるのではないでしょうか。私も今秋何度もいわゆる彼らの言うところの「核汚染水」に関して同僚から意見を求められました。

最近の社会情勢

中国社会の現状に関して一言で言うのであれば、やはり景気が悪いのだと思います。地方財政もかなり悪化しているようですし、日本でも報道されている通り、若者の失業率が俄には信じられないレベルまで上昇しています。3年近く続いた厳格なゼロコロナ政策の影響なのは間違いないでしょう。

中国政府としては、経済のことはある程度置いておいても、とにもかくにも台湾問題の解決が最優先課題なのだと思います。ただ、経済が傾くと社会全体が不安定化しますから、現在政府はその辺のバランスを取ることに苦慮しているのではないでしょうか。

大学教員の立場から見えている現状に関しても触れておきますが、個人的に驚いたのは、今年留学生の新入生の数が過去数年に比べて激減したという点です。あとは、科学研究費関連の予算も大きく下がっているようです。一方軍事予算は大きく増えていますから、まあそういうことなのだと思います。これができてしまうのが社会主義国家の強みなのかもしれません。

私が指導教官をしている学生たちは連日将来の生活への不安を口にしています。中国では民間企業の労働者は日本のように守られてはいませんから、なかなか生活が安定しません。かと言って、公務員になろうにもポストを得るのが難しく、求められる学位も年々高まるばかり。例えば、大学教員として終身雇用のポストを得るのも今後どんどん難しくなるだろうと言われています。そんな現状を見据え、学生たちは少し疲れているように見えます。数年前までの、経済がぐんぐん伸びていた頃のギラギラした感じが社会全体から消えてしまったように思えてなりません。

今後の展望

2024年の中国の展望を問われても、正直あまり明るいことが言える気がしません。やはり経済が傾き若者が元気を失った社会に明るい要素を見出すのは容易ではありません(日本社会にも部分的に言えることではありますが…)。

そして何より、情勢はきな臭くなってきています。日中関係も大いに悪化しています。2024年もこの傾向が続く可能性が高いでしょう。全ては台湾問題の行方次第ですが、例えば5年後、私のような日本人が普通に暮らせるような状況が続いているのか、少なくとも私は楽観的ではいられません。

もしかしたら今これを読んでくださっている方の中には、中国留学を検討している方や中国での就労を検討している方なんかもいらっしゃるかもしれません。「やめておけ」なんて言うつもりはありません。今回の記事では詳細は割愛しますが、中国での留学や就労にいろいろとベネフィットがあることは私ももちろん理解しています。ただ、コロナ禍前とはだいぶ状況が異なっているのもまた事実なので、情報収集を怠らず、危機管理意識をしっかり持った上でこちらでの生活を送ることが重要なのだと思います。

私のような者にできることなど何もありませんが、引き続き在中外国人、とりわけ同胞たちが安心して暮らせる状況が続くことを願うばかりです。

最近考えていること

約1年前の2022年12月、ずっと続くかに思われたゼロコロナ政策が突如終わり、あれから1年が経ったわけですが、私は中国という国でこの一連のコロナ禍の全てを見てきました。ロックダウン、大学のキャンパス内におけるバリケードの設置、泣いて怖がる留学生へのワクチン接種、その他ここには書けないようなシーンにも遭遇しましたし、私自身、6週間連続で狭いホテルの部屋に強制隔離された際には頭がおかしくなりそうになりました。

結果的にこれらの厳格な対応が国民の生命を守った可能性自体はあるわけで、私は現時点では批判も賞賛もするつもりはないのですが、とにもかくにもこの経験により、私の「社会主義」というシステムに関する理解は非常に深まりました。

社会主義とは何なのか、民主主義とはどう違うのか、もちろん我々は皆学校で習うわけですが、そこで得られる知識など極めて薄っぺらいものでしかありません。もっと言えば、ニュース番組のコメンテーターとして偉そうに中国に関して語っているような連中も多くはこちらで長期間(例えば5年以上)暮らしたことなどないわけで、社会主義が何たるか、とりわけ現場での運用に関しては大して理解してはいないと私は考えています。

私はだいぶ長い期間こちらで暮らしていて、かつ職業柄、中国共産党の党員ばかりの環境で生きてきたわけですが、ようやく最近社会主義というものがわかってきたという実感があります。

私は自然科学系の研究者ですが、最近は社会問題や政治に関していろいろと思うことが多いです。在中邦人ということで、民主主義と社会主義の対比に関してもそうなのですが、ニュース番組で連日報道されているように、21世紀になっても世界中で人間は戦争ばかりしています。そういった人間の潜在的な「愚かさ」や「暴力性」に心底失望している自分がいます。私の祖国だって将来的にはどうなるかわかりません。「平和」なんて言葉は平和ではないから存在するわけで、自分はそんな言葉が飛び交う時代に生きているのだなと痛感します。言うまでもなく各種兵器は基礎科学なしには存在し得なかったものです。私は軍事関連の研究をしているわけではありませんが、職場には誇らしげにきのこ雲の写真が掲示されているのもまた事実であり、時折何とも言えない気分になります。何かもっと本質的な部分で自分にできることはないものだろうか… なんて思いもあります。「四十にして惑わず」なんて言うわけですが、私はまだまだ迷路の中を彷徨っているような気がします。

とまあ、そんなことを考えつつ迎えた年末でした。

2023年もあと数時間でおしまい。
とにかく忙しい1年で、まさか大晦日に今年最初のブログ記事を投稿することになるとは…
文章を書くこと自体は嫌いではないので、来年は月に1度くらいは更新できたらいいなと思っています。もし記事のテーマのリクエスト等ありましたら、Twitter(https://twitter.com/busyerwin)経由で気軽に連絡してください。

ということで、今年も一年、お疲れ様でした。
2024年が皆様にとって素晴らしい年でありますように。

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